中島愛 『green diary』 レビュー
緑」をテーマにしたいって決めた
中島愛 『green diary』★★★★★
おすすめトラック
1. Over & Over ☆
2. GREEN DIARY
3.メロンソーダ・フロート
7. 窓際のジェラシー
8. ドライブ ☆
9. 水槽 ☆
『green diary』 レビュー
なんじゃこら。
楽曲のクオリティの高さや、豪華な作家陣、そして中島愛の歌唱力・表現力に度肝を抜かれた。正直買いです。
私は、中島愛という人間の存在をほとんど知らない。一人の声優、くらいの認知度である。
声優が出すアルバムはほとんど聞いたことがないし、聞くこともない。今回、中島愛の『green diary』を聞いたのも、偶然だった。
そしたら、とんでもないアルバムだった。まず、鳴っている音の音質の良さに気付かされる。
ここ何日もずっとリピートしているが、聞き疲れることが全くない。上質な脂のお肉を食べても、次の日にもたれないのと似ている。のかもしれない。
次に、作曲陣の豪華さに驚かされる。口ロロの三浦康嗣、清竜人、元Galileo Galileiの尾崎 雄貴、tofubeatsなど、豪華すぎる。これで良いアルバムができないほうがおかしい。
中島愛自身、楽器の良さが9割とインタビューで答えているが、あながち間違いではない、と思う。
しかし、最も重要なのは、最後の1割を担う中島愛の歌唱・表現だ。そして、中島愛は無事にその責務を果たした。
中島愛のために作られた楽曲を、中島愛自身が自分の色に見事に染め上げた。コンセプチュアルでカラフルなアルバムに仕上がっていると思う。
1曲目の「Over & Over』。日記や物語が、これから始まるような、不安と期待と、切なさが込められた鍵盤の一音から、口火が切って落とされる。
その音は、奇しくもMy Chemical Romanceの「Welcome To The Black Parade」の始まりの鍵盤に似ている。
『The Black Parade』もコンセプトアルバムだし、「黒」と「緑」という、色の共通点もある。
歌詞を詰め込んだポエトリーリーディングのようなヴァースを越えて、サビで一気に弾ける。
テンポの変化は目まぐるしく、かといってリスナーを混乱させない。内と外の目線が交互に交わり、中島愛という人間を歌で編み上げているような曲。
2曲目の「GREEN DIARY」は、デビューから今までのロードムービー的な楽曲。過去の自分を、客観的に見つめて包み込み、新たな中島愛自身をなぞっていくようである。
赤や青など色彩的な表現や、光と陰などの陰陽的な表現も見られ、中島愛が歩んだ人生を的確に表している。
また、「青臭い意味での緑」と「豊かさを表す緑」が、うまく表現されている。2曲目らしいテイスト。
3曲目の「メロンソーダ・フロート」は、ポップでキャッチーで爽やかなトラック。
実は、ポップでキャッチーな曲は、全10曲のうち、この「メロンソーダ・フロート」と「ハイブリッド♡スターチス」くらいしかない。
ストリングスやピアノのアレンジも相まって、楽曲だけで新緑や世界が、弾けている景色が目に浮かぶ。
それにしても「メロンソーダ・フロート」ってタイトル、いいよね。
7曲目の「窓際のジェラシー」は、なんか、懐かしい。この曲で聞ける音作りやアレンジは、中島愛の趣味である80年代90年代のレコード漁りが影響してそう。
ベースラインがうねうねで気持ちいい。シンセサイザーがいい意味で古臭い。が、気持ちいい。結果、気持ちいい。
ちなみに、嫉妬の眼指を意味する「green eyed monster」はシェイクスピアのオセロが由来する。
8曲目の「ドライブ」は、初期の宇多田ヒカルのアルバムに収録されていそうな、R&Bテイストなトラック。
悲しいでも寂しいでもない、ただ虚しいという気持ちを歌っている。「心に張った藻」も緑色。緑は、そういった「ただある感情」をも包括する。
チルいビートに、中島愛の淡い声が乗っかってて至高の楽曲に仕上がっている。メロディラインに呼応するように、ピアノが流れる。中島愛に寄り添うように。必聴。
9曲目の「水槽」はすでにシングルカットされていたもの。「green diary」の曲順で聞くのと、シングルで聞くのでは、聞こえ方や想起される情景が、全く異なる。心に張った藻を纏いながらも、その藻を受け入れて、より大きな緑に膨れあげていく、中島愛自身を、そんな巨大な「水槽」に喩えているのかもしれない。
「オールオッケー」「問題なし」などの意味を持つ「All Green」でラストを飾る。「水槽」で上昇してきた気持ちを、最後にポップに纏めあげて、中島愛の『green diary』は、ページを閉じる。
インタビュアーの人も書いていますが、8曲目「ドライブ」からラストの「All Green」までのの流れは秀逸。そしてまた、「Over & Over(何度も何度も)」へと戻っていく。
いやーーー、こんな完璧なアルバム、しばらく出ないのではないか。久しぶりに、完璧なアルバムを楽しませてもらいました。
是非下記の最高のインタビューも併せて読んでみてください。