ダラけた小僧の音楽れびゅぅ

アルバムや歌詞の解釈を徒然と……

L'Arc〜en〜CielのNEO UNIVERSEは〈現実〉と〈夢〉がテーマ 歌詞分析・解釈・意味

 

f:id:veganwally:20200425131112j:image

 

※以下、映画『翼のない天使』のネタバレを含みます。

 

2000年1月にリリースされた両A面シングルです。

 

tetsu(ya)は六弦ベース(高音側に二弦足している)で演奏していて、極上のベースソロが聴けます。yukihiroはスネアも叩かず、ひたすらハイハットを16分で叩き続けます。

 

サビのハモリはてっちゃんかと思いきや、どうやら「THE NEPENTHES」でもコーラスをしてるkという女性っぽいです。しかし、いい声ですねえ。

曲の最後のhydeのファルセットも美しい。アート性の高いシングル曲です。

 

曲は最高ですが、演奏自体はかなり攻めているかと。ボーカルとベースが常にメロディを引っ張り、電子音も用いています。さらにPVもかなり近未来的な世界観で2000年らしい曲ですね。シングルの中ではトップクラスに好きです。

 

歌詞は非常に難解ですが、hydeはこの曲が『REAL』というアルバムを象徴していると言い、さらに

夢を追いつつ現実はこうなんだなっていう部分が一番よく出てる。

(『WHAT's IN?』2000年9月号)

 

と語っています。

 

ざっくりとした一般的な解釈は「(ノストラダムスの大予言などを超えて)新世紀の幕開けだから、さらにいい世界になっていくだろう」という感じですかね。

私的解釈ですが、ぼくは「NEO UNIVESE」とは〈夢〉と〈現実〉の二項対立を飲み込み、織り合わせた世界のことを指していると思っています。

 

傾きかけた天秤の上へ
築き上げてく天よりも高く

 

天秤とは二つの重さ(〈夢〉と〈現実〉)を量るもの。その天秤の均衡が崩れてしまいそうな状況でも、構わずにその上へと築き上げていきます。「積む」のではなく、「築き上げて」いるのです。

 

〈夢〉は今、〈現実〉の重みに負けてしまっているけれど、なおそれでも、〈夢〉のイメージや世界を築き上げているのでしょう。いや、〈現実〉が厳しく、ツライ時ほど、〈夢〉の世界は反比例して「綺麗なもの」を描いてしまうんです。

 

 ぼくはこの「天よりも高く」という言葉を聞いて「バベルの塔」も連想せざるをえません。

「バベルの塔」のあらすじは神に近づこうとする人間に対し、神が人間の言葉を乱して塔の建設を放棄させるというもの。

hydeは皮肉っぽく人間を描いたのかもしれませんね。

 

 神に近付くことがエゴや自惚れだったとしても、もしそれが〈夢〉への憧憬だったとしたらそれはロマンスに変わります。

 

 また、タロットカードの「塔(バベルの塔がモチーフになっている)」は、正位置で破壊や破滅、崩壊を表し、逆位置だと再生や解放、復活を表します。

破壊と再生を繰り返し、高く高く人間としての誇りや希望を築き上げていくのでしょうか。

 

そんな飛べない無邪気な天使にも
朝は届く鮮やかに

 

天使のイメージは「フランダースの犬」でネロがルーベンスの絵を見た後の、あの名シーンに見られるような、羽を生やしラッパを持った裸の子どもたちですよね(神学者の中には天使には翼はないと唱える人もいるようですが)。

 しかし、「飛べない(無邪気な)天使」とは翼をもがれた天使、あるいは翼がない天使=人間と解釈することもできます。あるいは、翼のない天使とは、堕天使ネフィリムやルシファーのことを指すかもしれません。

 (余談ですが、「フランダースの犬」でネロが最期に観た絵はルーベンスの『キリスト昇架』と『キリスト降架』)

 

 hydeの背中にも羽のタトゥーが入っているので「飛べない天使=自分自身」という解釈もできます。「夢を追いかける純粋な人間(hyde)=飛べない無邪気な天使」として捉えているのかもしれないですね。

 

また、タロットカードで「太陽」の正位置は成功や幸運を意味します。「太陽=朝」と解釈するならば、「無邪気な天使=hyde」に「成功」が訪れる、ということでしょうか。

 

ちなみに『シックス・センス』のM・ナイト・シャマラン監督の二作目『翼のない天使』には(以下ネタバレ注意)、翼のない子どもの天使が出てきます。

 

−−−−−−−−−−

 

 

その映画の中では、主人公が死んだ祖父のために、神を探し回りますが、見つかりません(〈現実〉に打ち負ける〈夢〉)。

 

しかし、全ての困難乗り越えて「今までの僕は眠っていて、今目覚めたんだ(〈現実〉に目覚める)」と語り、映画の最後に「翼のない天使」に出会うことができます。今作のテーマの〈夢〉と〈現実〉を表象した映画だと言えるでしょう。

そんな翼のない子どもの天使にも〈現実〉を享受した主人公にも、平等に「朝」が訪れます。

「朝」という言葉には希望、新しさ、夢などのイメージが個人的には張り付きます。つまり、「朝は届く 鮮やかに」とは希望が訪れる、夢が叶う、再生するという解釈ができると思います。

 

その手を放さないで
目覚めるこの世界を感じて

 

サビの歌詞には二通りの解釈が可能です。

一つは、「夢はいつか叶うから諦めないで。その夢がすぐそこにあるのを感じて」という解釈です(こっちがオーソドックスな解釈かな)。

 

もう一つは、夢を追いつつも現実に足をつけておかなければいけない。だってその先に(〈夢〉と〈現実〉を横断していくに過程のみ)「NEO UNIVERSE(〈夢〉と〈現実〉の均衡を超越した世界)」があるから、という解釈ですね。

 

ひび割れそうでも透明なままで
昨日眠らず待っていたんだね 

 

ノストラダムスが「1999年に人類は滅亡する」と言った大予言は人々に大きな影響を与えました。大多数の人間が「どうせあたりっこない」と思いながらも、「本当に終末がきてしまったらどうしよう」という気持ちだったでしょう。

そんな人々の心境を描写した歌詞と取れますね。

 

個人的には、〈夢〉は〈現実〉に殺されそうだけど、その〈夢〉から抜け出せず、興奮と不安で眠れずにその時を待っていた、という解釈が面白いかなと。

 

夢を見ていた奇跡はもう来ないけど

遠い空が導いて

 

ノストラダムスの大予言を回避できるような奇跡は起きなかったけど(何事もなく、その予言は外れた)、21世紀という「空(希望の象徴か)」がぼくら導いてくれた、という解釈ですかね。

「遠い空」という表現がhydeらしくて良いですね。『マトリックス』的に解釈すると、遠い空は、ネオたちが目覚めた〈現実〉の方ではないでしょうか。〈夢〉を見ていた奇跡はもう来ないけど、〈現実〉が待っている、という解釈。

 仮想世界を生きていたという”〈夢〉の視点”には、もう決して戻れないけど、〈現実〉(トリニティやモーフィアスという解釈かな)が導いてくれる、という解釈です。

 

あなたは風のように優しく 鳥のように自由に
この世界をはばたく 恐がらずに neo universe

 

見逃すことができないのが、ここで初めて「あなた」という二人称が出てくることですね。この「あなた」は一体誰を指しているのでしょう。

そしてもう一つ。あの世界じゃなく、「この世界」をはばたいているんです。ここも見逃せません。

 

先ほどの歌詞で、〈現実〉に導かれるという解釈を提示しました。

その〈現実〉のことを「あなた」と呼びます。〈現実(に目覚めた人。トリニティやモーフィアス)〉は、〈夢〉から怖がらずにはばたいていく、というものです。

 

悲劇だとしてもあなたに巡り会えてよかった

 

「NEO UNIVERSE」をラブソングと解釈する人には 、別れの切なさを歌っているように感じますね。

実はこのフレーズが「NEO UNIVERSE」の中でも核となる歌詞です。

ここのメロディーや雰囲気だけが、妙に張り詰めていて、曲のイメージを少しだけシリアスなものにしています。下がっていくピアノの音も合わさって、そこはかとなく悲しい印象。

 

〈現実〉は〈夢〉とはほど遠い世界だったけれど、〈現実〉に目覚めてしまったんだけれど、〈現実〉に目覚めてしまったのは悲劇だったけれど、それでも〈現実〉に目覚められて良かった、というのがぼくの解釈です。

 

背中合わせの絶望をゆだねて

信じていたい いつまでも

  

ここも核となる歌詞。「背中合わせの絶望」 を一体「誰に(何に)」「ゆだねる」んでしょうか。ぼくの解釈では、背中合わせなのは〈現実〉と〈夢〉の二つ自身。

 

ノストラダムスの大予言ルートで解釈するなら、「人類が滅亡する」という絶望を、ひとまず未来へと「ゆだね(無視する)」て、この世界が続くことを「信じていたい いつまでも」という感じですかね。

 

ここからはぼくの解釈。

〈現実〉は〈夢〉に対して”そうあることができなかった”ことへ絶望し、〈夢〉は〈現実〉に戻ってしまうこと・目が覚めてしまうこと、”「実は」そうじゃなかった”ことへの絶望を、”互いに”背中合わせで感じているんですね。

 

 

f:id:veganwally:20200426004137p:plain

 

 

その絶望をお互いに委ね、それぞれの世界での幸福を「いつまでも信じる(「いつまでも」とはすなわち終わりがない、永久的なという意味)」ことで「NEO UNIVERSE」に到達することができます。

この辺の解釈はメーテルリンクの「青い鳥」の解釈にも通ずるものがありますね。

 

きれいな花のように笑って 星のように輝いて

この世界をはばたく 恐がらずに neo universe

生まれ変わる季節よ 切なすぎた季節よ

空のように一つに 結ばれよう neo universe

 

 

隠喩を得意とするhydeが珍しく「ように」を多用しているのが面白い。

 

「生まれ変わる……」のパートからは、〈未来〉と〈過去〉をも飲み込んで行こうとする「NEO UNIVERSE」の凄まじさや力強さを感じることができます。

そうして、全ての二項対立を「空のように」、雲も太陽も飲み込むが如く、一つにしていくんですね。

 

「NEO UNIVERSE」をもっと詳しく味わいたいという人は、『マトリックス』や『フランダースの犬』、『翼のない天使』を観賞ください!

 

 

 

note.com

 

veganwally.hatenablog.com